君よ、風になれ!
第13話

その夜、電話で呼び出された。夜の公園。街頭のベンチで、やまちゃんが待っていた。

「なんだよ、こんな夜更けに」

自転車を止めて、やまちゃんの前に僕は立つ。

「・・・」

やまちゃんは話さない。今年の秋は深まるのが早い。空気が少し肌寒い。

途中で買った缶コーヒーで手を温める。

「ひよりちゃん、今年中に東京へ越すんだ」

いきなりのやまちゃんの洗礼に僕は驚く。「ご両親の仕事の都合らしい。卒業まで、籍はこの高校に残すそうだけど」

今は9月。残された時間は、あと4ヶ月しかない。

「なんで僕にそんなことを?」

「さっき、涙まじりの電話があった。お前。ひよりちゃんを振ったんだってな?」

そんなつもりはなかったんだけど、ひよりちゃんはそう受け取ってしまったらしい。

「誤解だよ。僕は、やまちゃんとの恋愛を頑張れって・・・」

「フェアプレイはもう懲り懲りだ!どうせ俺じゃお前に勝てないんだ!」

日頃、穏やかなやまちゃんが声を荒げた。「恋も走りも、いつも、ふうたは特別だ」

僕は、ただただ気圧されていた。

気づいたんだ。

そうか。優等生でも、心細いながらに踏ん張っているんだ。

「なあ。・・・やまちゃん。賭けないか?」

僕は、右手の缶コーヒーを差し出す。「僕が、今度の大会を勝ち残れるか、残れないか。

「そりゃ、いくらなんでも賭けが成立しないだろ。お前の出るのは成人大会だぞ?」

「僕は勝ち残るよ。そして、絶対、ひよりちゃんを迎えに行く」

ビックマウスなのは、わかってる。

可能性が限りなく、ゼロに近いのもわかっている。

でも、僕は、走ることしか取り柄がない。だから、これで運命と勝負する。

「・・・予選通過できなかったら?」

やまちゃんがおどおどと、言葉をつなぐ。

「僕は、一生、ひよりちゃんのことを追わない」

 

「わかった。絶対に、負けんなよ」

「どっちを応援してんだよ?」

苦笑しながら、やまちゃんは僕が差し出す缶コーヒーを受け取った。