「ひよりちゃんに告白したのは俺だ」
3日後、信じられない真相を語ったのは、やまちゃんだった。
僕は言葉に詰まった。
その場で、一言も気の利いた言葉を発することができなかった。よかったな、とか、頑張れとか。幼馴染の初恋を応援するエールのひとつでもあったら格好良かったけど、実際出たのは戸惑いとうろたえだった。
なに今頃、後悔してんだ。当たり前じゃないか、いつも部活でもやまちゃんとひよりちゃんは一緒だった。気づかないバカは僕くらいだ。
やまちゃんはすごくいい奴だ。頼もしくて、かっこよくて、根性があって、僕よりも周りから信頼されてて。走るスピードは、今は僕の方が上かもしれないけど、それでもまだ成長期の僕たちだ。いくらでも記録は塗り替えられる。追い越されることも当然あるだろう。走るのは、努力できる。ノウハウだってたくさんある。でも、人の気持ちにはどんな神様も手を出せない。
「だめだ。もう1回!」「はい!」
放課後の僕のトレーニングに、川浜コーチが怒声を上げる。
そばで見守るひよりちゃんの顔も心配そうだ。なぜか、気持ちに気づかれるのがカッコ悪いように思えてしまう。すぐに手に届くところにいるのに、ひよりちゃんとの距離は遠かった。
ひよりちゃん、やまちゃん、いつき、僕。
保育園時代からのこれまでの4人の形は、ずっとこれからも同じだと思っていた。
今日も練習の帰り道、先をいくひよりちゃんと2人きり。
「やまちゃんには、返事したのかよ」
「・・・え?」
ひよりちゃんが驚いたように、僕を見た。「どうして、それを?」
「本人から聞いたんだよ。・・・頑張れよ。僕が言えるのは、それくらいだ」
ぼそっとこぼした僕の言葉に、ひよりちゃんの驚いた顔。
曇って、歪んで、たちまち、ひよりちゃんは泣き出していた。
今更、気づいてしまった。ひよりちゃんは僕を好きだったんだ。