9月。3年生の授業は、クラスがバラバラになって、大学受験の体制に入る。
僕は、数学と物理を生かした国公立を目指していた。
3年生になって授業を落とした2ヶ月をフォローすることは難しかった。
というか、今でもまったく理解できてない。
その上、授業終了後は2時間のトレーニングだ。
勉学も運動もともにやりながらは、きつかったけど。数ヶ月前の空虚さはそこにはなかった。
いつきともすぐに和解できた。
会うなり、一気に高校生活が戻ってきたような居心地の良さがあった。いつきは不作法で困った奴だけど、それでも青春の1ページには欠かせない存在だった。先に大学への推薦入学を勝ち取ったやまちゃんが、僕といつきの家庭教師を務めてくれて。おかげで、点数はいくらか伸びた。まあ、どうしょうもないときは、笑ってごまかすしかないけど、それまでは諦めずトライする。ひたすら繰り返す反復練習。過去問を徹底的にさらう毎日が続いている。
「ねえ、女の子が入り口で待っているよ?」
女子が、ぼくに教えてくれる。きっと、ひよりちゃんが迎えにきたんだ。
「サンキューな」
僕は、教えてくれたその女の子に一言返すと、僕はひよりちゃんの待つ教室の外へと向かった。
「ふうたくん、変わったね」
ひよりちゃんが、ぼそりと並んで歩く玄関まで一緒に歩を進める。
「悪いな。マネージャー引退したのに、練習に付き合わせて」
「・・・好きでやっていることだから」
うつむいたまま、ひよりちゃんが答える。
部活は本当なら、僕もひよりちゃんも引退なんだけど、特別に新人戦に向かう2年生とともに走っている。
目標があった。
10月に開催される大会を目指す。とりあえずは、今月の地方予選の上位通過。ライバルが多くて面白そうだから、成人枠での出場だ。
それは、夕焼けの綺麗な、部活の帰りのことだったと思う。
「最近、走るのが楽しそうだね」
練習と勉強で遅くなることが増えたので、ひよりちゃんを家まで送るのが日課になっていた。
「うん。そりゃあ、楽しいさ」
急に立ち止まって、ひよりちゃんが僕を見た。少し、言葉をためらっているようだった。
「あのね。相談があるんだ。聞いてくれる?」
ひよりちゃんが言葉をきりだした。彼女がこんなことを言うのは、生まれてはじめてこと。そして、次の言葉は、さらに考えもしなかった一言だった。
「私、告白されたの。どうしたらいい?」