第10話
周囲は、結果に呆然となった。ゴールを切って、肩で息をする。
体一つ。僕は、やまちゃんより早くテープを切っていた。
「10秒01・・・です」
ひよりちゃんが驚いたように、ストップウォッチの記録を読みあげる。
高校記録タイ。まあ、いろいろあって今回、正確な公式記録ではないけれど。
一方で、僕の心は久しぶりの感覚に心躍っていた。記録なんてどうでもよかった。やまちゃんと一緒に走るのが楽しかった。
そう、楽しかった。
もっと、走りたい。もっともっと、とわくわく心が躍る。
気がついたら、やまちゃんが右手を差し出していた。
僕も笑顔でその手を握り返す。
「どうじゃな?川浜。往年の自分を重ねられたか?」
とゲンゴロウ爺さん。
「・・・一体、どんな魔法を使ったのやら」
そういうコーチの顔にも悔しさは感じられない。
「川浜。あとはお前さんの手で、一人前に仕上げてみせろ」
ゲンゴロウ爺さんが信じられない一言をはなった。
「ふうた、ひとつアドバイスじゃ」
思わず、爺さんを凝視する僕。「奴が苦言を言ったら、こう返せ。『僕はおねしょはしませんでした』と」
「岸田先生! 私の生徒に何吹き込んでるんですか?!」
信じられないことに、あのエリートコーチが慌てふためいている。
ふうん。川浜コーチって意外と子供じゃん。
そう思うと、急に身近に思えてきた。今までのスパルタにだって、きちんと理由があったわけだし。
"川浜先輩とあなたはスタイルが似てるからね。全国区の成績が狙えると思うの"
静香さんの言葉が脳裏をフラッシュバックする。
そして。
僕は、今でも、その後の自分の行動が信じられない。
その時の僕は、自主的に頭を下げて、こういったんだ。
「川浜コーチ。お願いします。あなたのスタイルを、僕に学ばせてください」
(つづく)