君よ、風になれ!
第9話

翌日早朝、僕らは、山を降りることになった。

今回は、爺さんも一緒だ。

静香先生の旦那さんが、車で僕らを迎えに来た。

来た先は、僕らの高校が練習に使っている陸上競技場。もしやと思ったけど、そのもしや。

僕は固まった。

そこには、やまちゃんとひよりちゃんと、川浜コーチがいた。

 

3人とも表情が厳しい。

車の中で聞いたんだ。先日、全国大会を終えて、やまちゃんたちも引退をしたんだそうな。

「先生、本気ですか? 県大会2位の山崎と、その落ちこぼれを競わせるなんて」

川浜コーチが爺さんと僕を挑発する。

あ、このクソコーチ、開口一番、言うことがそれかよ。

「まあ、そう粋がるな川浜。こいつは骨のある逸材だぞ。何せ、岸田源五郎の愛弟子だからの」

ゲンゴロウ爺さんも応戦する。

というか、勝手に僕って、爺さんの愛弟子にされちゃってるけど。

 

僕は久しぶりに軽装になって、やまちゃんの隣に立った。

「ふうた、、、随分、体を絞ったんだな?」

やまちゃんがぼそりと僕に言う。

「そうか? まだまだ、足りないと思うけど」

履き古したランニングシューズに足を通す。

久しぶりの感覚、足が馴染む。立ち上がる。確かに体がかなり軽い。

スタート前の緊張感、、、しばらくぶりだ。

初夏の空気を確認する。

今は、風はない。でも、プレッシャーも感じない。ただ、走ればいい、単純な思考に感覚を重ねる。

、、、と、ふと我に帰った。

風を待っているだけじゃだめだ。もっと感覚を研ぎ澄ますんだ。

クラウチングスタートの体制をとる。距離は100メートル。

さあ、県大会2位との真剣勝負の始まりだ。

 

僕は合図と共に、スタートを切った。