君よ、風になれ!
第7話

「なんで、僕がこんなことやらなきゃいけないんだよ、、、、!」

謹慎が解けた1週間後。

僕はとある山小屋に住むひとりの老人の世話になっていた。

名前を「ゲンゴロウ爺さん」。静香先生や川浜コーチたちを指導したかつての名指導者だと聞いている。

『あなたの答えがそこにあるわ』

と静香先生。出した休学届けは1ヶ月。それ以上の休みは、受験に差し障るとの判断だ。

山小屋は、登山道から離れた深い森に立っていた。バスも1日に数本くるかこないかの山奥だ。バスの終点から、さらに歩いて30分。簡素な山小屋が、ゲンゴロウ爺さんの家だ。

そして今、僕は、風呂のために、川から水を汲んで運んでいる。川と山小屋との距離はゆうに500メートル。一体、何回、往復する必要があるのだろう。考えるだけで気が重い。

爺さんは、外出中だ。今夜の夕食の食料を調達に出かけたんだとか。

「なにせ、来客は久しぶりだからの。腕によりをかけるぞい」

風呂が水でいっぱいになる頃を見計らって、ゲンゴロウ爺さんが帰ってきた。

手に持ったザルに、キノコと野草と毛をむしったウサギを掴んでいた。ウサギは罠にかかっていたとか。どの光景も僕にとって、目に新しい景色だった。

 

薪で沸かした五右衛門風呂から上がって、ほっと一息。

山奥だからだろうか。真夏だと言うのに、日が暮れると同時に冷え込んだ。

炭が燃える囲炉裏。天井から吊り下げられた鉤に、鍋をひっかけてある。

「静香からは聞いとるよ。伸び悩んでいるんだって?」

僕は事情を説明した。話せば話すほど、場違いな場所にやってきた後悔が胸に去来する。電気も水道もガスもない。こんな場所に来て、僕に何が見つかるというのだろう。

囲炉裏越しのゲンゴロウ爺さんは、穏やかな顔を浮かべている。

「そうか。川浜の坊主とやりあったか」

爺さんが楽しそうに笑った。真っ白な歯がこぼれる。

「おそらく、走ることでしか答えが出ないことを伝えたかったんじゃな」

なんだそれ。拍子抜けした。

そんな簡単なことだったら、口頭で言えば済むじゃないか。

ゲンゴロウ爺さんが、鍋をすくって、僕に差し出した。

腹が鳴った。

そういえば、どっぷり日は暮れたのに、まだ、夕食も食べてない。受け取った皿は、やけに熱い。無言ですする。空腹に、キノコ鍋が染み渡る。

「食べたら、寝ろよ。明日は早いぞ。体を冷やさんようにな」