君よ、風になれ!
第6話

そこからは、めちゃくちゃだった。

逆上したぼくといつきの喧嘩は、警察を呼ぶほど白熱した。

僕も不満が溜まってた。

だれも僕の気持ちをわかってはくれない。

当然だけど、僕といつきは1週間の自宅謹慎になった。

この学校にしては、穏やかな措置だった。本来なら、退学になってもおかしくない。そうならなかったのは、やまちゃんとひよりちゃんが場を収めてくれたことと、僕ら2人の関係を知っている学校側の配慮のおかげだった。

 

数日後、自宅に1人の来客があった。

休んでいたはずの静香先生だった。

「あ、、、」

僕は、言葉を失った。

いつもなら、結果を出すたびに一緒に喜んでくれた静香先生。ようやくやっと、自分のしでかした事の大きさに気づいた。帰ってくる彼女のことも考えず、積み上げてきた数年間を捨てて、逃げて、仲間にも暴力を振るった。

なんとか、逃げるように言葉を探した。

「先生、、、産休もういいんですか?」

「ダメに決まっているじゃない。こっちは1週間前に出産したばかりの新米母さんよ」

弱々しい顔で笑いながら、コーチがこづく。

「でも、今はそんな場合じゃないでしょ。ドクターストップを振り切ってきたわ」

目頭が熱くなった。

川浜コーチから謝罪を受けたと静香先生は話した。価値ある才能を潰した責任を取りたいと。周囲は猛反対したそうだ。僕のいない穴を埋めたのは、驚いたことにやまちゃん。過去最高の記録を残して、エースの代役を務めあげ、県大会2位に名を残した。当然、短期間で逸材を育て上げた川浜コーチを学校が手放すわけがない。

悔しかった。そこにいたのは僕のはずだった。

「ううん。あなたは、もっと上に行けるわ」

言われて驚いた。

「川浜先輩とあなたはスタイルが似てるからね。うまく噛み合えば、全国区の成績が狙えると思うの」

初めて聞いた川浜コーチの内輪話。

「、、、」

涙が止まらない。静香先生の優しさがひたすら痛い。

今さら、すべては取り戻せない。

「終わったと思ってる顔ね」

さすが静香先生。僕の考えが見透かされてる。

「違うんですか?」

「最後まであきらめない。私が、最初に教えた事でしょ」

肩を叩いた手は、産後の女性とは思えないほど、心強かった。

(つづく)