そこからは、めちゃくちゃだった。
逆上したぼくといつきの喧嘩は、警察を呼ぶほど白熱した。
僕も不満が溜まってた。
だれも僕の気持ちをわかってはくれない。
当然だけど、僕といつきは1週間の自宅謹慎になった。
この学校にしては、穏やかな措置だった。本来なら、退学になってもおかしくない。そうならなかったのは、やまちゃんとひよりちゃんが場を収めてくれたことと、僕ら2人の関係を知っている学校側の配慮のおかげだった。
数日後、自宅に1人の来客があった。
休んでいたはずの静香先生だった。
「あ、、、」
僕は、言葉を失った。
いつもなら、結果を出すたびに一緒に喜んでくれた静香先生。ようやくやっと、自分のしでかした事の大きさに気づいた。帰ってくる彼女のことも考えず、積み上げてきた数年間を捨てて、逃げて、仲間にも暴力を振るった。
なんとか、逃げるように言葉を探した。
「先生、、、産休もういいんですか?」
「ダメに決まっているじゃない。こっちは1週間前に出産したばかりの新米母さんよ」
弱々しい顔で笑いながら、コーチがこづく。
「でも、今はそんな場合じゃないでしょ。ドクターストップを振り切ってきたわ」
目頭が熱くなった。
川浜コーチから謝罪を受けたと静香先生は話した。価値ある才能を潰した責任を取りたいと。周囲は猛反対したそうだ。僕のいない穴を埋めたのは、驚いたことにやまちゃん。過去最高の記録を残して、エースの代役を務めあげ、県大会2位に名を残した。当然、短期間で逸材を育て上げた川浜コーチを学校が手放すわけがない。
悔しかった。そこにいたのは僕のはずだった。
「ううん。あなたは、もっと上に行けるわ」
言われて驚いた。
「川浜先輩とあなたはスタイルが似てるからね。うまく噛み合えば、全国区の成績が狙えると思うの」
初めて聞いた川浜コーチの内輪話。
「、、、」
涙が止まらない。静香先生の優しさがひたすら痛い。
今さら、すべては取り戻せない。
「終わったと思ってる顔ね」
さすが静香先生。僕の考えが見透かされてる。
「違うんですか?」
「最後まであきらめない。私が、最初に教えた事でしょ」
肩を叩いた手は、産後の女性とは思えないほど、心強かった。
(つづく)