第3話
その日とうとう、転機が来た。
「もういいだろ!記録が伸びないのはコーチのせいだ!」
僕は10本以上も繰り返したダッシュのあとで、川浜コーチに怒鳴り返した。
周囲が驚いたように、対立する僕たちを見守る。上下関係の厳しい体育部で、指導者に歯向かうことがどういうことかわかっていた。でも、僕にとって、意味のわからない練習はもう限界だった。
「やめてやるよ!こんな部!大会にも顔出さない!」
からっぽの部室で着替えた僕を、ひよりちゃんとやまちゃんが心配そうに待っていた。
「ねえ。ふうたくん」
「知らん」
僕は悪態をつく。思い出すだけで、はらわたが煮えくりかえる。
ひよりちゃんが体を震わせて、僕を見る。その震えが示すものを、その時の僕にはわからなかった。
「ふうた。本気で辞める気か?それで本当にいいのか?」
やまちゃんが口を開く。
僕、ひよりちゃん、やまちゃん、いつきは、子供の頃からの付き合いだ。その頃から、やまちゃんは頼り甲斐があった。
「幼いころから、夢中になってきたじゃないか。さあ、コーチに一緒に謝りに行こう」
「誰が行くかよ」
まったく、こんな時もやまちゃんは世話好きだ。どんな時も、部のみんなのことがわかる。人の気持ちが汲み取れない僕と大違い。劣等感が苛んだ。
何度も何度も言葉を拒む。
やまちゃんとひよりちゃんが顔を見合わせた。
ぼくは着替えの入ったバックを背負い、自転車に飛び乗る。逃げるようにペダルをこぐ。風を切って、自転車が走り出した。