「ありがとうな、健治くん」
玄関先で旦那が笑顔で声をかけると、サンタクロースの格好をした男が帽子を押さえて照れ笑いを返した。
「いやあ、職場が運送業でして。毎年クリスマスは仮装配達なんですよ。ついでに寄っただけっす」
玄関の奥からは、プレゼントに大はしゃぎする可奈と瑠夏の笑い声が響いてくる。
深夜のサンタの正体は、かつて私の弟だった健治。今や三児の父となった彼が、甥と姪のために駆けつけてくれたのだ。
「子どもが無邪気に喜んでくれるのは、今のうちだけですからね。俺にとっても可愛い姪っ子たちですし」
「健治くんは本当に優しいなあ」
旦那がしみじみ言う。なんとも微笑ましい光景だけれど、この二人、昔は同じ人を想っていたんだよね。
まさかあの頃の恋のライバルが、今では親戚同士になっているなんて、人生は不思議なものだ。
「そうそう姉ちゃん、先日うちの嫁が世話になったみたいで、ありがとな」
「気にしないでよ」
そう返したところで、私のスマホがLINEの通知音を鳴らした。
「あら、来たわね。あんたたちのイブはこれからでしょ、頑張りなさいな」
私は画面を健治に見せると、彼はにやりと笑って去っていった。
旦那はその背中を見送りながら感心したように呟いた。
「いい男だよなぁ。あんなに格好よくて、家庭も大事にしてて、でも全然所帯染みてない」
そう、健治は大学時代に学生結婚をして、今では3人の子の父。
「でもね、そんな健治が輝いていられるのは、奥さんの支えがあるからよ」
「確かにな。なんてったって、奥さんは学園のマドンナだったもんな」
冷たい夜気が肌を撫でる中、私たちは少し笑って、家の中へ戻った。
旦那がフランスに留学したあの年の数年後、健治はついに想いを叶えたのだ。
佐々木ゆりか──私の親友であり、あの時、健治が涙を流して想いを告げた相手。
恋は、いつもまっすぐに成就するわけじゃない。けれど、待ち続けること、信じることもまた、立派な行動だと彼らが教えてくれた。
あの夜の涙は、今日という幸せの種だったのかもしれない。
静かに降る雪が、白く街を包み込んでいた。