純文学とワイングラス
第8話 明かす聖夜のランデブー(下) SIDE A

聖夜のスターフェローズ。

夜遅くまで営業する喫茶店で、健治は一人の少女に告白を断っていた。

「ごめん。俺、好きな人がいるんだ」

涙を浮かべた少女は、静かに立ち去った。私はその様子を隣の席から見守っていた。

結局、健治の強引さに負けて、姉弟でクリスマスイブを過ごす羽目になったのだ。

「辛いわね」私が呟くと、健治が少し苦笑いを浮かべる。

「まあ、次は俺が味わうかもしれないしね」

彼は今から、本命の相手に告白するつもりだった。

「本当にあんたに私の付き添いが必要だった? メンタル強すぎでしょ」

「そうでもないよ。俺、いつも追い込まれないと勝負に出れないんだ」

「じゃあ、私のことが好きとか?」

「え? いや、ないない。姉ちゃんはさすがに対象外だよ」

その言葉に少しムカつきながらも、どこか安心した。

「もうすぐ会えるから。そしたら全部わかる」

健治は時計を見て立ち上がる。「さあ、9回裏の攻撃に行こうか」

 

私たちは夜の街へと向かった。

向かった先は、大通りの巨大なクリスマスツリー。

そこには、見慣れた女性の姿があった。

「佐々木さん、いつも姉貴がお世話になってます」

そう言って深々と頭を下げた健治の声に、私は一瞬言葉を失った。

「ゆりか?! あんた、今日はモヤシとここで会うんじゃなかったの?」

「うん。でもその前に、健治くんの手紙の返事をしに来たの」

健治の想いは真剣だった。

「好きです。姉貴の親友として、いつもそばにいるあなたに惚れました」

「ごめんなさい。今は答えられないの」

ゆりかの返事は予想通りだったけれど、誠実さがにじんでいた。

「返事は待ちます。俺、もっと頑張ります」

「…ありがとう」

健治は私の手を握り、静かにその場を離れた。

彼の目は潤んでいた。

「まいったな。目から汗が止まらない」

「そうかぁ」

私は何も言えず、ただ弟の頭をそっと撫でた。

この夜、彼はほんの少し大人になった気がした。