聖夜のスターフェローズ。
夜遅くまで営業する喫茶店で、健治は一人の少女に告白を断っていた。
「ごめん。俺、好きな人がいるんだ」
涙を浮かべた少女は、静かに立ち去った。私はその様子を隣の席から見守っていた。
結局、健治の強引さに負けて、姉弟でクリスマスイブを過ごす羽目になったのだ。
「辛いわね」私が呟くと、健治が少し苦笑いを浮かべる。
「まあ、次は俺が味わうかもしれないしね」
彼は今から、本命の相手に告白するつもりだった。
「本当にあんたに私の付き添いが必要だった? メンタル強すぎでしょ」
「そうでもないよ。俺、いつも追い込まれないと勝負に出れないんだ」
「じゃあ、私のことが好きとか?」
「え? いや、ないない。姉ちゃんはさすがに対象外だよ」
その言葉に少しムカつきながらも、どこか安心した。
「もうすぐ会えるから。そしたら全部わかる」
健治は時計を見て立ち上がる。「さあ、9回裏の攻撃に行こうか」
私たちは夜の街へと向かった。
向かった先は、大通りの巨大なクリスマスツリー。
そこには、見慣れた女性の姿があった。
「佐々木さん、いつも姉貴がお世話になってます」
そう言って深々と頭を下げた健治の声に、私は一瞬言葉を失った。
「ゆりか?! あんた、今日はモヤシとここで会うんじゃなかったの?」
「うん。でもその前に、健治くんの手紙の返事をしに来たの」
健治の想いは真剣だった。
「好きです。姉貴の親友として、いつもそばにいるあなたに惚れました」
「ごめんなさい。今は答えられないの」
ゆりかの返事は予想通りだったけれど、誠実さがにじんでいた。
「返事は待ちます。俺、もっと頑張ります」
「…ありがとう」
健治は私の手を握り、静かにその場を離れた。
彼の目は潤んでいた。
「まいったな。目から汗が止まらない」
「そうかぁ」
私は何も言えず、ただ弟の頭をそっと撫でた。
この夜、彼はほんの少し大人になった気がした。