純文学とワイングラス
第7話 明かす聖夜のランデブー(上) SIDE A

高校時代の私は、見た目は控えめで真面目な女子。ワープロの打鍵は高速でも、恋愛には極めて慎重派だったのだ。なのに、あのモヤシ事件のおかげで、私の貞操観念への信頼は地に落ちた。それでも聖夜くらいは家族と静かに過ごすつもりだった。ゆりかとモヤシのラブラブデートに付き添う必要なんて皆無。こっちはサンタも来ない家だし、靴下なんて飾る気もなかった。

 

そんな私に弟・健治が「相談がある」と声をかけてきた。こたつでミカンと戯れていた私の手に、なぜか桃色の封筒が。角2の洋封筒には丸文字で「瀬戸内健治さま」…これはまさかのラブレター!?

「どうしたのよ、これ?」

「…読んでみ?」

ハートのシール、裏面。うん、これは間違いなく恋文だ。ついに健治にも勇者が現れたかと感慨にふける私に、健治は一言。

「断ろうと思ってる」

は? なんで?

「好きな子がいるから…っていうか、姉ちゃんに付き添ってほしいんだ」

止まる時間。体感3時間。ラブレターを断る場に、姉を連れてくる神経がわからない。

「いやいや、断るなら男らしく一人で行きなさいよ!」

だが健治は「そのあと告白したい子がいる」と、目を逸らしつつ続けた。

 

その翌日、図書室でゆりかに相談すると、彼女はにこやかに爆弾を落とす。

「健治くん、あゆみのこと好きなんじゃない?」

「実姉だよ!? それはないって!」

「恋の練習相手になるんだって、雑誌に書いてあったわ」

急に弟の目が“オス”に見えた私は、動揺でカタカタ震えた。

そこへ登場したモヤシ。「何話してんだ?」と首をかしげるが、ゆりかがさらなる爆弾投下。

「ねぇねぇ、あゆみちゃん、今度告白されるかもなんだって~」

「ちょ、やめろバカッ!」

モヤシの頭がショートし、「人間失格」を手に図書室を彷徨い始めた。

「静かにしなさーい!」

森先生の一喝に、私たちはそそくさと教科書を開いたのだった。