純文学とワイングラス
第3話 交換日記 SIDE A

さて、先にも少し触れたが、私は学生時代、モヤシとゆりかのデートにさんざん付き合わされた。今思えば、あれは“付き添い”というより、“巻き込まれ”だった。

ファミレスでドリンクバーを頼み、一番コスパの良いポテトフライを囲んでの語らい。夢を語り、勉強を嘆き、本の話に熱を入れ、先生のモノマネで盛り上がる。お小遣い月3000円の私は、そのたびに財布の中身とにらめっこしていたが、やがて気づいた2人が割り勘にしてくれたのが救いだった。

当時は携帯もない。手紙が唯一の“密な通信手段”で、なぜか私はラブレターの代筆をさせられたこともある。ばっちりバレた。私の字は、みみずの痙攣。判読するには専門家が必要だった。

それからしばらくして、2人は交換日記を始めた。これがまた、なぜか私が“受け渡し係”に任命された。しかもその日記、ただの交換じゃない。なんと内容が「仮想恋人はクラスメイト」という、ゆりか作の長編小説仕立てだったのだ。

しかもその主人公が、よりによって私。光源氏も真っ青な恋愛遍歴を繰り広げ、男女問わず次々と恋に落ち、手も出す。描写が細やかすぎてリアル。加害者として描かれながら、現実では被害者。こんな理不尽なキャスティングがあるだろうか。

極めつけは、生徒会入りしたゆりかが忙しくなってから。モヤシとゆりかが会えない時は、私が日記の“窓口”となり、モヤシから受け取り、ゆりかに届ける役目を担わされた。ある日、突然モヤシが私の教室に現れ、日記を渡してきたのだ。その光景はたちまち話題に。私とモヤシは、学年どころか学校中の“公認カップル”になってしまった。

しかも、私はその後モヤシと本当に結婚したわけで…もう言い逃れの余地もない。完全なる予定調和。娘たちが目を輝かせて「パパとママって、学生時代からラブラブだったんでしょ?」と無邪気に聞いてくるたび、私とモヤシは互いに目をそらしてしまう。

でも――あの交換日記が、なぜ始まったのか。モヤシもゆりかも、いまだにその理由を語ってくれない。まったく、どこまでも謎だらけの青春だった。