純文学とワイングラス
第2話 図書室 SIDE A

始まりは、あの桜舞う入学式のあと。文芸部に入りたくて、ゆりかと一緒に図書室に入部届けを出しに行ったんだよね。で、そこで出会ったのが――モヤシ。そう、後にいろいろ面倒ごとを起こしてくれる男。

そのとき、モヤシは図書室の大きなテーブルを一人で独占してて、しかも全集を山のように積んでてさ。「本の虫」という表現、あれモヤシのためにあると思う。好きな作家は遠藤周作?へぇ~、渋い。でも、理由がもっと笑えるの。「コスパがいいから」って!厚みがあるのに安いし、図書館ならタダで借り放題。今なんか、青空文庫をiPhoneで読んでるんだってさ。まじでオタクの鏡。

そこで初めて森先生にも会ったの。司書で、紅葉ヶ丘の卒業生で、モヤシの家族とも知り合いらしくて。なんか、モヤシはそのコネで図書室に巣を作ってる感じだった。でね、モヤシに「本、お好きなんですか?」って聞いたら、ようやくこっち向いたの。そしたら「ほんとは旅行が好きなんだけど、今は時間もお金もないからね」って。いや、それ本の話から旅行に飛ぶ?って思ったけど、それがモヤシなんだよ。

そんなきっかけから、ゆりかと私とモヤシ、3人で放課後に図書室に集まるようになったんだけど――ある日、ゆりかが急に言ったの。「惚れた。アタックする」って。えぇ!?って声出た。まるでペットショップで喋る九官鳥に夢中になる小学生みたいな目してんの。対象は、もちろんあの男。

「趣味が旅行の薄幸の文学青年。これは私と結ばれる運命でしょ!」ってドヤ顔で言うの。まぁ、確かにゆりかって帰国子女で、小さい頃は旅行ライターの父と世界を回ってたらしいから、そこにモヤシを重ねちゃったのかも。

でもさ、「モヤシがライオンだったらどうすんのよ?」って聞いたら、「それはそれで飼い慣らす」みたいな返事されて。ほんと、笑うわ。

それでも告白はなかなか進まず、ついに私、業を煮やして言っちゃったの。「おい、モヤシ。付き合え。とっとと」って。そしたらさ、「お前、誰と俺をくっつけようとしてるんだ?」って、なんで見抜かれてんのよ!

で、私が「ゆりかだよ。絶世の美女!」って言ったら、「お前、『絶世の美女』の意味知ってるか?」って…。いや、ググったし!

で、最終的に私、なぜかモヤシの告白練習の相手をさせられることに!もう、「好きだ」とか「付き合ってください」とか、何回も言われてさ…。しかも、「あゆみ、好きなんだ」って、私の名前入れちゃってるし!

そのうち、なんかこっちまでドキドキしてきて、「君といたら楽しい夢が見れそう」なんて言われたときは、ほんと心臓止まるかと思ったわ!いや、落ち着け、あゆみ!相手はモヤシだぞ!

で、一週間後の放課後。ついに本番!図書室で、モヤシがゆりかに告白。「俺と付き合ってくれないか」って。私、後ろでグッドサイン出したよ。練習の成果、出てた!

ゆりかも「うん。ありがとう」って答えて…よし!これで終わり!と思ったら!

「付き合ってくれるのは嬉しいけど、最初は2人きりだと不安だから…あゆみも一緒にいてくれたら嬉しい」

「わかった」とモヤシ。

……なんでやねん!!!

 

こうして私は、この2人の恋の付き添いとして、1年間巻き込まれるハメになったのでした。ああ、青春って、どうしてこうも予定通りにいかないんだろうね?