純文学とワイングラス
第1話 初恋 SIDE A

私の初恋は小学時代の担任の先生だ。ほのかな憧れが芽生えて、2週間後の家庭訪問。そこで、高校生の娘さんがいると知り私の初恋はあっけなく幕を下ろした。

 

で、ここからが話の始まりである。

私の初恋の話から始めたのには理由がある。だって、本当に伝えたいのは、モヤシの恋の話。まあ、今じゃモヤシこと三枝裕史は私の旦那だけど、これはまだ私が“瀬戸内あゆみ”だった頃の話。あの頃の私は、彼に恋心なんてカケラもなかった。

モヤシの初恋は、生徒会長の佐々木ゆりか。小柄で美人、カリスマ性もあって、同性からも憧れられる“ザ・マドンナ”。一方のモヤシは180センチのガリガリで、あだ名のとおりモヤシ体型。なのに、そのギャップが逆にレアキャラ扱いされて、ゆりかはまさかの一目惚れ。図書室で、漫画みたいに本を積み上げてた彼にね。

私?私はただの巻き込まれ体質。2人の恋が秘密だったから、デートの引率係も私。口止めされてたけど、結局、交換日記の内容も知ってたし(めっちゃ私の話ばっか書いててビビった)。カモフラージュのために呼び出されては、飲み物奢られて、小説のネタもゲットして…まぁ、役得なキューピッドってことで。

でもさ、私にだって青春はあったし、読書タイムを邪魔されたくない時もあった。モヤシに借りた本、面白くて素直に読んでたら、ゆりかにめっちゃ嫉妬されるし。だからってあらすじまとめて渡したら、今度はモヤシに問い詰められるし。いやいや、彼女いるくせに何なん?って話よ。

そのうち、彼はゆりかと別れた。理由はモヤシの海外留学。青春の終わり方としては、ちょっとドラマチックだったと思う。

私は結局、高校時代に誰とも付き合わなかった。あの頃は“キューピッド”って呼ばれてたけど、恋の矢を飛ばす側ばっかで、自分には1本も刺さらなかった。でもまぁ、そのぶんネタは豊富だし、今となってはいい思い出かな。

 

ってことで、娘たちには内緒だけど、お母さんにもちゃんと、恋とか、ジェラシーとか、あったんだよ。ふふん。